カーハートと“襤褸(ボロ)”の新しい価値観
ここ数年、ファッションの現場では「ボロ」の再評価が進んでいる。
ヴィンテージウェアやワークジャケットにおける“使い込まれた美しさ。
それが価値として見なされる時代に突入したのだ。
そんな価値観の変化を象徴するブランドがある。
アメリカ発の老舗ワークブランドCarhartt(カーハート)だ。
一見すると“ボロボロの古着”。しかしその一着には、唯一無二の背景と美しさが宿っている。
日本古来の襤褸
Carhartt カーハートとは?
カーハートは、1889年にアメリカ・ミシガン州デトロイトで創業されたワークウェアブランドだ。
当初は鉄道作業員のために丈夫なオーバーオールを製造していたが、その実用性と耐久性から、次第に建設業や運送業など多くの現場で支持を集めていく。
代表的なアイテムといえば、「ダック生地」と呼ばれる厚手のコットン生地で仕立てられたジャケットやパンツ。
頑丈で、雨や風にも強いこのウェアは、まさに“働く男”の制服としてアメリカの文化に深く根付いた。
“ボロは格好いい”という価値観とカーハートの関係
では、なぜ今あらためてカーハートが注目されているのか?
その背景には、ファッションシーン全体に広がる“ボロ美学”の浸透がある。
本来であれば、色褪せやダメージといった要素は“劣化”とみなされ、価値を下げる要因とされていた。
しかし2020年代に入って以降、ヴィンテージ古着市場ではむしろ「どれだけ使い込まれているか」が評価軸のひとつとなっている。
退色(フェード)色落ち、ペンキ跡、擦れ、リペア痕といったダメージの痕跡は、その服が歩んできた時間の証であり、新品の洋服にはない個性を宿すものとして捉えられているのだ。
90s 強く退色したダブルニー(私物)
実際、某フリマアプリでは、しっかりと退色したカーハートのジャケットが、ほとんど未使用の個体よりも高値で取引されるケースが珍しくない。
“新品であること”が必ずしも価値の証ではなく、“時間を重ねてきたもの”にこそ本質的な魅力を見出す人が増えてきたのだ。
その象徴とも言えるのが、カーハートのタフなダック地に刻まれる“色落ち”の表情である。
色落ちという新しい視点でカーハートを楽しむ
色落ちといえば、まず思い浮かぶのはデニムかもしれない。
長年穿き込むことで現れる“ヒゲ”や“ハチノス”といった表情は、ジーンズの大きな魅力のひとつだ。
しかし、同じように、色落ちの美しさを楽しめるのが、カーハートのワークウェアである。
90s BLK(私物)
カーハートの魅力は、着倒すほどに現れる“表情の変化”にある。
厚手のダック地は着用者の動きに応じて少しずつ退色し、まるで生地に記憶が刻まれるように個性を帯びていく。
とくにブラックやブラウンといった定番カラーは、着込むほどに深みのあるムラが生まれ、縫い目やエッジが浮き立つ――いわば“ワークウェアのアタリ”だ。
摩耗によるアタリ(私物)
同様にブラウン系のモデルも、摩耗や洗いを経て“土のような”深いグラデーションへと育っていくのだ。
この“アタリ”の美しさは、色褪せを「劣化」ではなく「深化」として捉える、現代的な価値観を象徴している。
まとめ:色落ちは進化である
かつて作業服として生まれたカーハートのジャケットは、今や“経年変化を楽しむ一着”として新しい存在感を放っている。
とくに色落ちという視点で見れば、その魅力はただのファッションを超えた「美の記録」だ。
もし、次の一着を探しているなら――
新品よりも、“誰かが時間をかけて育てた”カーハートに袖を通してみてほしい。
そこにはきっと、自分だけの価値観に気づくヒントがあるはずだ。
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