ヴィンテージTシャツの世界には、ときに“静かにすごい”アイテムが存在する。
今回紹介するのは、オランダの画家M.C.エッシャー(Maurits Cornelis Escher)の作品がプリントされた、90年代のヴィンテージTシャツだ。
“錯視の魔術師” M.C.エッシャーとは?
エッシャーは1898年、オランダ・レーワルデンに生まれた版画家。
20世紀を代表する“だまし絵”の巨匠として知られ、視覚的な錯覚や無限性、構造的なループをテーマに数々の作品を残した。
《滝》《相対性》《メタモルフォーゼ》《手を描く手》などの作品は、数学的構造と幻想的世界観を融合させた唯一無二のスタイルだ。
彼の作品は、アートや建築、数学にとどまらず、音楽やサブカルチャーにも影響を与えた。
プログレバンドの巨匠ピンク・フロイドのアルバムのヴィジュアル面にも表現技法が引用され、サイケデリックやストリートカルチャーとの相性も高い。
Pink Floyd ummagumma
アート作品とヴィンテージTシャツ
今回紹介するTシャツには、エッシャーの代表作がずらりと配置されている。
白と黒のコントラスト、そして作品同士の“つながり”が意識されたプリントレイアウトだ。
各名作をTシャツで楽しめるおもしろいアイテムです。
タグはANDAZIA(アンダジア)のものが多く、製造国は90年代らしいアメリカ製だ。
このTシャツではエッシャーの名作がふんだんにデザインとして落とし込まれている。
一つ一つ、じっと凝視したくなるだまし絵特有のおもしろさが魅力だ。
描く手 1948年 上昇と下降 1960年
相対性 1953年 爬虫類 1943年
Supremeによる再評価とアートTのブーム
ファッションとしてのエッシャーを語る上でかかせないのがSupremeの存在です。
2016年、Supremeはエッシャーとの公式コラボレーションを発表。
《手を描く手》や《相対性》などの作品を用いたTシャツ、スケートデッキ、パーカーなどがリリースされ、一部は即完売した。
これを機に、ストリートシーンにおけるエッシャーの存在感が一気に高まった。
この動きは、アートTシャツ全体の再評価にもつながっていき、
90年代当時に製造された、アーティスト公式ライセンス下のTシャツに注目が集まり、古着市場でもじわじわと価値が上昇。
エッシャーのヴィンテージTはその象徴的な存在として、アートとファッションの交差点に再び姿を現した。
まとめ:プリントTに宿る“知性”と“構築美”
M.C.エッシャーのヴィンテージTシャツは、どこか知的な雰囲気を感じるTシャツです。
構図、プリント技法、ボディの雰囲気。すべてに“90年代らしい完成度”が宿っている。
着る人のスタイルに溶け込みつつ、語れば奥行きがある。そんな一着だ。
ファッションとしての面白さだけでなく、知的な背景をもつヴィンテージT。
それこそが、この連載で紹介したい“90年代の名品”の、ひとつの在り方なのかもしれない。
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